EmmeAkka

Interview 「EmmeAkka 盛合博美」

文・構成:飯島貴志・写真:徳宿光 Nov. 2015

今日は“EmmeAkka”のブランドで日本とイタリアの自転車作りを融合した三陸宮古のビルダー盛合博美さんの工房を訪問しました。


三陸宮古とEmmeAkka


飯島

“EmmeAkka”(エンメアッカ)というブランド名は聞き慣れない名前ですが、どういう意味なのですか。

盛合

私の盛合博美のイニシャルM.Hをイタリア語で発音するとエンメアッカとなります。これからとりました。

Interview 「EmmeAkka 盛合博美」

飯島

多くのビルダーが首都圏や関西圏といった大都市圏に工房を開くのに、盛合さんはここ、故郷の三陸宮古に開きました。何か特別な思いがあったのですか? 

盛合

都会の喧噪から離れ、故郷宮古の自然、土地で仕事に集中できる点と、東北エリアにはビルダーが少ないからです。

飯島

2011年の東日本大震災の際は、ここ宮古市は大きな被害をうけました。盛合さん、地震発生時は仕事をしていらしたのですか?

盛合

はい。仕事中でした。立っていることも出来ないくらいの激しい揺れが長く続きました。
揺れが終わってしばらくすると消防車が大音響で避難勧告をしながら走り去り、母をつれて急いでクルマで高台へ避難しました。命は助かりましたが工房は水没して殆どの工具、フレーム 、材料は使用出来なくなりました。その後、同じ工房で機械類は少しずつ買い揃え、作業再開まで半年がかかりました。半年で再開できたのは早い方でした。多くの方々はもっと時間がかかったようです。中にはまだ避難所住まいの方もいてお気の毒です。


“素材”が一番大事


飯島

東京のマツダ自転車さん(ブランド名“LEVEL”)で4年修業されたそうですが、その頃の思い出は何かありますか?

盛合

当時のマツダ自転車では競輪自転車を作り始めたころでした。田口塗装(現ゼットワークス)さんに阿部さんという当時競輪の最高ランクA級の選手がいました。
その阿部さんは私たちが作ったLEVELの自転車で勝ち続け、とてもうれしく、誇らしかったのを今でも鮮明に覚えています。
それからもう一つは、30年前としては画期的で今に通じる技術を駆使して、“エアロロード”というケーブル、ヘッドパーツ、ブレーキ本体等をオール内蔵した自転車を6人掛かりで、連日徹夜で作りました。若かったのですね、今では体力的にとても無理です。(笑)

Interview 「EmmeAkka 盛合博美」

飯島

その後、独立されて宮古で工房を開かれたのち、イタリアへ行くことになりますが、どのような背景だったのでしょうか?

盛合

その頃(80年代後半から90年代)、欧州のレースではアルミフレームが出現して連戦連勝でした。一方、日本ではスチール一辺倒でアルミ、チタンをハンドメイドで使っている人はいませんでした。正確に言うとラグ(註-1)を使ってアルミフレームを作成している人はいました。ただし、その場合、決まった角度で決まった長さのフレームしかできないという制約になってしまいます。
そこで、この新素材のアルミで出来たフレームをどうやって作るのか、どう走ってるのか、どう壊れるのか自分の目で確かめたくなった訳です。

飯島

作り方に関して当時、イタリアと日本で大きな違いがありましたか?

盛合

技術的な作り方の違いというよりも製作行程で違いがありました。日本ではビルダーがパイプの切断、ザグリ(註-2)、ロー付け(註-3)、といった工程を全てひとりで行っていたのに対して、イタリアでは各工程は専門の職人がいて分業体制でした。

飯島

分業体制で職人数も多いことから人件費の高いヨーロッパではイタリアに限らず、採算が合わず多くのメーカーが廃業または生産拠点を中国に移しましたよね。特にハンドメイド自転車はギルド的な制度のもとで伝統的な技術の継承をしていましたので一ファンとして残念ですね。反対に日本の場合は小規模であったことと日本に“競輪”があったことでハンドメイド自転車の“火”を絶やさなかったことは幸いでした。話をもどして自転車にとって素材が大事ということですか?

Interview 「EmmeAkka 盛合博美」

盛合

素材が一番大事です。スチールパイプは、どことどこを組み上げて調整するのかという質問をよく受けますが、同じスチールでも素材が違えば、例えばニッケル、マンガンといった添加剤が異なったり、パイプの厚さでいえば肉厚が厚い(0.7mm〜1.0mm)、薄い(0.4〜0.7mm)で根本から“走り”が違ってきます。だから自転車を作る上で、いつもどの材料が一番良いのかと問いながら作ることを心がけています。

註-1:ラグ
フレームの各パイプ同士をつなぐパーツ

註-2:ザグリ
自転車パイプの場合はパイプ同士を接合する際に、接合面を密着できる形状に研磨等で加工すること

註-3:ロー付け/ろう付け
”ラグ” を使ったケースでは アセチレンガスの火で細い棒状の合金(ろう)を溶かし、毛細管現象を利用してラグの内側に流し込んでパイプ(金属)どうしを溶接する。”ラグ”を使わない”ラグレス(フィレット)” のケースでは接合する部材(母材)よりも融点の低い合金(ろう)を溶かして、母材自体を溶融させずに複数の部材を接合させる。